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2005.12.20

さらばロッドブレイカー

シャロムの森にも雪が降り、その渓流も墨絵の世界にと姿を変えているようです。
今年のクローズまで後1週間、大砂防堰堤の上にあるプールに寄り添うように白い腹を並べて山女が2匹、今年の最後の産卵を終え、子孫を残し、その短い3年という命をまっとうしたようです。-シャロムの森-「生と死・・・・ありがとう」より
073012
今年の7月の終わり、やつは大砂防堰堤の上の黒坂石川が道路の下の蛇かごで組んだ護岸にぶつかり、左に直角に折れ曲がるポイントに居た。
少な目の流れでは有るが、その蛇かごで組んだ護岸のところに、深く居心地のいいえぐれをつくり出すには十分であった。
やつはその一番深い最高の場所に身を隠し、慎重にかつ大胆に暮らしていた。
普段は水面には顔を出さず決して日中に迂闊に姿は見せずに、流れが折れてよろついた小魚や、流れに揉まれて沈み込んでくる虫を、穴から半身を出し確実に捕食していた。
その日もいつもと同じように、えぐれの中で獲物を待っていた。
目の前をアカハラが流れに揉まれてもがいて行くのが見えた、夏になり水棲昆虫も少なくなり、格好の食事であった。
が咥えたそのアカハラはいつもと違っていた。
咥えた瞬間に唇に深く刺さり、かなり強めの力を感じたのであった。
しかしやつはその力に対して一歩たりとも引かれ上げられることはなかった。
それどころか、一瞬の沈黙の後、やつは大きく反転させ2度3度とその深みのある場所に身を潜らせた。

普通ならこのくらいで口元の糸は切れるのであるが、今日のはなかなか 切れなかった。
それならばともう一撃加えてやれと身をよじったのと同時にバキッという乾いた音が伝わってきた。
糸がふける一瞬のうちに、やつは蛇かごのささくれたメタルの一部にその糸をかけ、いつものねぐらに潜り込んだ。
なにやら騒がしく、バシャバシャと何者かが水に入ってくる音を聞き、口元に刺さったアカハラアントの糸に力が掛からなくなるのを確認した。
引っ張られた口元は少し痛いが、後は口元に刺さっているやっかいな物を取り外せばいいことだった。

shalom1男は呆然としていた、数ヶ月前に買ったばかりのカムパネラのC36114にシャロムの森の岩魚と山女の引きを味わさせてやろうと目論んでいたのだが何もかもその瞬間に吹っ飛んだ。
同じ群馬の源流に近い渓で型のいい岩魚にも出会ってかなりいい気分で居た。
しかし午前中は右の沢で思うような釣りが出来ず、昼前後の夕立での笹にごりに乗じての虹鱒では満足はしてなかった。
なんとしてもシャロムの森の岩魚や山女が釣りたかった。
左の沢に入るが昼のBBQとビールで腹がゆるくなっていた。それに加えてその日は「魚が下を向いている状態」でドライフライにはかすかな反応すら見せなかった。
森の番人さんに同行していただいてガイドまでしてもらっているのだが、やはり反応はなかった。
ゆるくなった腹が辛くなり急遽トイレに連れていってもらうと、一度おとなしくなっていたはずの空がにぎやかに騒ぎ出した。小降りに成るのを待ってやって来たのが、この大砂防堰堤の上だった。
護岸沿いの際すれすれに何回か流しながらこの大曲にたどり着く。
初めは浮かせて流してみたが反応がない、ならばと流れにもつれさせ深みにアカハラアントを流し込んだ。
普段ニンフの釣りでも男は目印を付けない、フライラインとリーダーの繋ぎ目のわずかな動きで当たりを取っていた。ほんの1cmだろうか、くいっと引き込まれるフライラインに大きく合わせを入れる。
手ごたえはあった、しかし根掛りでもしたかのようにピクリともせず、リーダーが流れに45度に刺さったかのように動かない。
が次の瞬間持っていたロッドがゴンゴンゴンと3段階に引き込まれるのであった、弓なりのロッドがタイトに曲がる、さらに潜られてはと思いロッドがあおりかけた時に第2波によって3pcのロッドはバッド部の繋ぎ目で真っ二つに折れた。
峪にバキーンという音がこだまを残す。
男はまだラインが繋がっているとラインを持つが、その先はすでに蛇かごの一部に絡められていた後だった。万事休す。
泣く泣くテーパーを切って貰った。いつもなら合わせ切れでもしてしまうテーパーはその直前に5Xのノットレスリーダーに変えてあった。
「畜生!ロッドが直ったらまた来るからな~」と悔し紛れに放った言葉はやつに聞こえただろうか。
それでもあまりの悔しさに折れた部分を抜き出し、さらにティップをこじ入れ、先ほどと同じようにフライをキャストするのであったが、何の音信も無かった。
その日の釣りはそこで終わり、林道に重い足取りで這い上がりMTBにまたがり坂を下る、山猫軒ではすでに着替えを終えた諸先輩方が待っていた。
yamanekoその秋、日々の雑務に追われとうとうシャロムの森に行くことが出来なかった。
なんとしてもリベンジと思っていたが、やつは3年目の最後のペアリングを終え、先に逝ってしまったようだ。
この渓で生まれ、そして育ち、最後のペアリングをして子孫を残し、その生をまっとうしてしまった。
腕の悪いフライマンに構っている暇はないのであろう。
白い腹を上に向け、大砂防堰堤上のプールに自分のパートナーと並んでいる。
やがてその肉や骨は溶け、自分の子孫たちの骨や肉となって行くだろう。
もしくは大雨の増水とともに堰堤下に落ち、ぼろぼろに成ったその身は虹鱒の餌に成るのだろうか。

やつに合掌。偉大なるファイターに合掌。

何も足さない・何も引かない、あるがままに保全されている渓だからこそ見られるその生、そして死。
雪が降り森は眠りに入る、だがその雪の下の流れでは岩魚や山女が着々と生き続けるだろう。
春までのお休み。
来年のシャロムの森も楽しそうです。

蛇かご積み工=防水シートを張り、ステンレス鋼板エキスパンドメタルを用いたハニカム構造のかごに玉石などを入れ積み上げて護岸する工法。コンクリートで護岸するより自然にローインパクトな工法でシャロムの森ではこの方法が取り入れられています。


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