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2005.10.24

ShortStory「リピート」

とある男がとある国の聖堂に有る女神像の慈悲有る姿に感銘を受ける。
数々の過ちや失敗を繰り返し、成功というものから縁遠いところにいた男は
「女神様、もし願いを聞いていただけるなら、一度だけ自分の人生のやり直しをさせて下さい。」とお願いをするのである。
旅から帰り、忙しい日常に押し流されないよう、日々暮らしてきたその男。

ある日の深夜、「その男起きなさい」と呼ぶ声に気付くのである。
寝ぼけ眼で枕元を見ると、美しい女神がそこに立っていることに気付く。
「あなたの願いを叶えてあげましょう。」
混乱する頭の中で数年前の願い事を思い出す男、
自分が何を願ったのかすらとっくに忘れてしまっていました。
(思い出した・・・、あのときの女神様だ・・・・。)
「一度だけですよね。」
「一度だけです。」
いざ、そう言われてしまうといつに戻して貰おうかと考えだしてしまう男。
優秀と言われた小学校時代に戻ってもう一度さらに勉学にいそしむか、言い出せなかった初恋に決着をつけに行くか、
高校の部活時代に戻ってもっと打ち込んでこようか、進学先の考え直しもいい、高校時代に男子校故、あまりに恋愛に縁遠かったので何とかしたいし、麻雀とバイトばかりの学生時代をやり直したいし、
若い時に世界を放浪してみたかったし、就職だってもっとやりたいことがあったし、しくじった永い春も有る。
あの時上司に楯突かなければと思うし、総務の子と付き合ったのも不味かったし、今やっている趣味だってもっと早くに始めたかったし、ここまであげつらってもまだまだそれは単なる序章に過ぎず、さらに社会人となっても、恋愛・結婚・転職などなどとことんキリが無いのである。

考え出せば考え出すほど、あの時が有りこの時が有る。
延々と3時間、男は過去の過ちをしゃべり続けるのである。
たった一度に絞れと言われてもどうにも如何とし難く迷い続ける男。
黙って聞いていた女神もうんざりしている様子・・・。
「わかりました、私がリセットする時を選んであげましょう。」
「本当ですか?。」
「あなたにふさわしいところを私が選びます。」
女神が選んでくれるなら、その先にはいい人生が待っているに違いないと男は思った。
「はい、分かりました、ではお願いします。」
女神の杖が振られたと同時にかなり激しいショックと共に男は深い眠りに入る。

時空がどのくらい経ったのだろう。
男は目覚める。
しかし暗い暗い穴倉の中にいる自分に気付く。
漂いながらかすかに残る記憶をたどると、(そうだ、女神が現れて一度だけリセットしてくれると言っていたんだ・・。)
しかしここは何処だろう、手も足も無い姿になっているぞ。
待てよ、これは、この形はまさしく精虫だ。
女神様は俺の話を聞いてふさわしいところへ戻すと言っていたぞ。
生まれる前に戻されたのか・・・。
しかも沢山の兄弟たちが俺の前を泳いでいる。
なんてこった、生まれる前のしかも消滅する予定の精虫になっているとは・・・!?。
女神の選んだ道はこれだったのか~。愕然としているのだがこうしてはいられない。

とにかく意識が無くならないうちに先に行かねば、前に行かねば。
生まれてこの方出したことも無い必死な努力で、ひたむきに、兄弟たちを蹴倒し前へと進むのである。
かつてない形相で目的地にたどり着く頃には以前の記憶は何もかも無くなっていた。

こうしてその男は以前の失敗や過ちをすっかり忘れてこの世に再生されたのである。
そう多くの反省も無く悔恨の念も無く同じ過ちを犯すために生まれてくるのである。
-この作品はフィクションです-

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